2016年03月03日

勝って、しかも負けるという術…

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■第三幕 第二場 104ページ

   ジュリエット
  教えて、汚れなき二人の純潔を賭けたこの勝負に、
  勝って、しかも負けるという術を。

原文:
Come, civil night,
Thou sober-suited matron, all in black,
And learn me how to lose a winning match
Played for a pair of stainless maidenhoods.

現代英語訳:
Come, night, you widow dressed in black,
and teach me how to win my love so that we both can lose our virginity. 


原文の大意を直訳すると、
「初体験に臨む二人が、この勝ち試合で(ちゃんと)喪失する方法を学ばせて」
ということだと思うのだけれど…

原文では「how to lose 」=負け方 になっているのが、モダントランスレーションでは
「 how to win 」=勝ち方 にひっくり返っているところが、軽く気になりつつ。。


上に記した教室テキストは、3人の翻訳家さんの文を混ぜたものなのです。
どれも帯に短し…だったので。


       教えて頂戴、穢れない二つの操を賭けたこの勝負、
       どうしたら失うことで勝利できるのかを。
河合祥一郎:訳 


 意味は分かりやすいのだが訳としてあんまり面白くない(個人的感覚)。
 操って、、なんか急にババ臭くなってジュリエットの心情に乗れなくなる(笑)



       二人の汚れない純潔を賭けたこの勝負、
       どうしたら勝って負けられるかを教えて。
松岡和子:訳  


 前半は詩的に美しい整いがあるのだが、後半はあっさりしすぎて意味が弱い。
 (個人的感覚)
 勝って負けられる?? 何のことやらと原文と河合版を引いて超訳かぁ!と。
 しかし普通に一読しただけでは謎のラインとしてスルーされかねない。
 ここ、けっこうポイント高い台詞なので、困りたものよと。



       お願いだわ、
       純潔無垢の処女と童貞と、その二つを賭けたこの勝負に、
       勝って、しかも負けるという術を教えてもらいたいの。
中野好夫:訳  


 前半の意味はもっとも分かりやすい、がこんな身も蓋もない台詞いうの嫌(笑)
 「勝って負ける」が二本出てきたことで、どうやらこれが邦訳のベーシックらしい。
 どうせなら中野さんの後半の美文調をいただくことにする。


というわけで、
日本語訳には英文の直截な内容以上の哲学的な何かがありそうに思えて来まして。

天下の名訳家たちが雰囲気だけで言葉を選ぶとは思えないので、
「勝って、しかも負ける」からは恋の深淵が覗けそうじゃありません?


恋愛において、「勝って、しかも負ける」とは、どういうことか。。

二人が初めて一つになるという時、運命というものも含め、
何に勝ちたくて何に負けたくなるのか。。


そのあたりを考えて、イメージを広げていただく、
これが今週の宿題です。
それぞれの恋愛観が見えてきそうで、面白い謎解きになると思います。
(^o^)v

私はこの先をせっせとリライトしますので、
まだ未読のシーンを中心に、あなたの疑問や解釈を持ってきてください。

ジュリエットもですが、特にロミオの狂乱っぷりがかなり謎です。
なんであんなに悶絶して、追放という処遇に恐怖したのか。。

そして、あの美しくも有名な別れのシーンですね。

恋するひとを残していく。
恋しいひとの背を見送る。
ひばりの歌で追い立て、引き剥がす、残酷な朝。

その時あなたならどんな激情におそわれるか。。

おうちで追体験しておいてください(笑)








2016年03月01日

恋の手引きで。

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春のクラスを始めて6週間がたちました。
みなさんの熱い心に後押しされて、夢中でここまできたけれど、
ふと立ち止まればあと4週。。

来週からは本格的に自分の劇団の公演稽古が入ってきますし、
4月になれば、教室は初夏までお休みになるのです。

それを思えばなおのこと、あとひと月でみなさんにどれだけのものをさしあげられるのか、
まだまだ、もっともっと!
気持ちばかりが前のめりになって困ります。

あと4週間、とは。
なんだか、春が来るのがこわい。

不思議なものです。
だって、去年の今頃は自分が教室をはじめるなんて思ってもいなかったんだから。
それが今こんなにも愛するものになっているなんてことも、夢にも思わなかったんだから。

というか、こんなにも愛せるものにめぐり逢えた、その不思議に、
打たれているのかなー。

ほとんどが見知らぬ人たちとして、初めまして、から始めているのに、
そういう人に、こんなに想いをかけられるという不思議に、かなー。。

感じているのは、出会いの妙。
よくぞみつけて、尋ねてきてくださった。

たどり着いても続かないご縁もたくさんあったのだし、
それを思うと、会うたびに心の糸を縦に横にと紡ぎ合えている、
これはほとんど奇跡です。

定点にいて待つ身には、その有り得なさが、よーく解かった半年でしたね。


講座は3クラスともかなり深まって、個別の記事にまとめづらくなってきています。

企業秘密的な内容が増えているので(笑)ということもあるけれど、
何より、『ロミオとジュリエット』と『隣の花』の読み解きが、
自分の中で渾然となってきているのが大きな理由かもしれません、
どっちにも共通することなので、どちらかを選んで書けない、というようなね。

どちらも恋がはじまる物語。

そしてどちらも、障害にはばまれた恋。

偶然なんですけどね、
なんだか蓋を開けたらどのクラスでもこの問題と向き合う羽目になってるのが、
お、おぅ?(笑)

ただ、物語が目指す観客席への置き土産は、真逆です。

ロミジュリは、至高の愛、愛の信念を問いかけてくるお話なので、
最終的には宗教的とすら言える人間の崇高の極みが迫ってくるわけで、
まともに触れたら人生観すら変わりかねない強いパワーのある物語。

隣の花は、もっとナマモノな世界、
日常がいかに危ういバランスの上に成り立っているものか、
逸脱させないものは何なのか、それは果たして真に大事なものなのか、否か、
という、軽々しくみせながら多分にシニカルな大人のお話、ですのでね。

その違いは、横たわる障害のビジュアルを見ても一目瞭然。
ロミジュリの間を阻む壁は、こーんなに高い。

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 とりあえず、いっこらせっ…
 とよじ登らなければ、
 ジュリエットには触れられない。

 つま先だけで自重を支えるなんて、
 若者にしかできまへん(笑)

 一方で、隣の花の両家を隔てるものは、
 低くて軽い竹垣ひとつ。

 その気になれば、ひょいと跨ぐことも、
 でいっ! と蹴り倒すこともできちゃう、
 有って無きような便宜的結界。


 しかし、どっちのほうが高い壁かといえば、
 これはなかなかに深い問題。

 簡単に蹴りこくれるような境のその向こうに、
 魅惑の花が、
 たまらん風情でふっくりとひらいていたら…

 あーたは花泥棒にならずにいられますか?



という、ドSにもほどがある選択に、悶々と懊悩することになるわけですから。
大人の日常は、すべてこの闘いかもしれませんが。(笑)

阻まれる恋のことを考えていたら、なんだか『椿姫』が読みたくなってきました。

隣の花には『マノン・レスコー』に触れたセリフが出てくるけれど、
ちょっと前までは雛子のようにファム・ファタールに憧れた自分もいたけれど、
今は『椿姫』が、
やけに気になります。


恋って、なんなんでしょうね。

したいからってできるものでもないし。
周囲は絶賛する存在なのにまーるで心が動かないことだってあるんだし。

本当に、
落ちるもの。

もう二度とするもんか!と誓っていても落ちるもの。
さすがにもう無いと思っていても落ちるもの。
だめだめダメ!と思っていても落ちるもの。。ってダメと思ったときはもう落ちてるのか(笑)

意図せぬうちに、気づいたらもう囚われて、抜け出せなくなっているもの。

  〜ひとりのかよわい娘の中で分別と情熱が格闘している場合、
   我々の経験からいって、9対1の割合で情熱が勝ちをおさめるな〜

                  シェイクスピア 『からさわぎ』

恋をすると詩人になるよね、とは教室で出た話題ですが、
だからロミジュリはセリフがやたら詩!だったりもするわけですが、

芸術はもとより命までも、万物を生み出すエネルギーであるがゆえか、
世の中でもっとも厄介なものでもあるかもしれません、恋は。

そうね、パワーないとできないものだから、
その意味では、恋に落ちる力があるうちは安心していいのかもしれない、
生き物として大丈夫、みたいな?

えーっじゃああたしダメじゃーん!とガヨーンとなるのは早計です。
だっていつ落ちるかわからないのが恋だから。

      〜驚きだ、いつも目隠ししているくせに
       恋の神は見えぬまま思いどおりの的を射る〜

               シェイクスピア 『ロミオとジュリエット』

恋には賞味期限があるけれど、恋する気持ちには、それはない。
いつだって新鮮な罠は待ち構えているのです。

罠にハマればもがくことになるのは必定だから、
仕掛けがありそうなところには近づかない。
あるいは、よほど強力な罠でなければ、かかることはない。

まあ、それも、わかる。
けれど肉体の旬というのはあるのでね、まぎれもなく。
器が丈夫なら、火傷するような熱さも御馳走にできるのです。

いっぱいしたほうがいいですよ、一度しかないんだから人生は。
それも、苦しい恋ほどいいね。

       〜真の恋の道は、茨の道〜

               シェイクスピア 『夏の夜の夢』

人間大きくなりまっせ(笑)


先週は、ボディクラスも『ロミジュリ』と連動し、
マキューシオのセリフを使って、つか風の見得切りをやったりしました。

今の人ってみえきり、知らないのね、やって見せたらわーっと吸い込まれたようで、
夢中になって習得に躍起になってました。
気持ちいいからね〜見得切りって、芝居のケレンの全てがここにあるの。

今週のメンバーなら、何をすることになるかな。
恋も芝居も人生も、運命を決めるのはアドリブだったり。

そのアドリブが美しき裏目ばかりを引いていったのが、『ロミオとジュリエット』。
『隣の花』は、アドリブに飛び込んだところで終わります。

いずれ必ず散るのだけれど、それでもなんとか咲かせたくなる、
小さなちいさな花にすぎなくても、きれいにひらかせてやりたくなる、
それが、

恋。

考えただけで疲れるけど(笑)
厄介すぎて惹かされる、げに厄介な謎の華です。


 
 ジュリエット

誰の手引きでここへ?

  ロミオ
恋の手引きで。

とにかく君を尋ねろとそそのかしたのも恋、
智慧を貸してくれたのも恋、僕はただ目を貸しただけ。

僕は船乗りではないけれど、
これほどの宝を得るためなら、たとえ君が
最果ての海に洗われる岸辺にいても危険を冒して海に出る。


         『ロミオとジュリエット』 第二幕第二場