2015年09月23日

ブロック1:読み解きノート

kao06.jpg

海浜の寂れたホテル。

訪れたのは、男(45,6)と女(28,9)。

男は苦学生あがりの役人とでも言いたい風貌。
女は素人風をした商売女、と言えば言える感じ。
二人は夫婦のようにも、夫婦でないようにも見える。

先客は、土屋園子(38,9)と京野精一(21)。

園子は、現代風の好みを利かせた洒落た和服姿の、歌を詠んでいるらしい女。
東京の本宅に息子を残して、このホテルの常連になっている。
京野は子爵家の御曹司、体が悪いということで静養に来ている。
二人とも長逗留している組だが、まだ話したことはない。

ホテルには女中頭のるい(50)がいる。

この物語の登場人物は5人。
舞台はだだっ広い日光室。
正面に大きな窓、右手に客室へ上る階段と蓄音機、左に外へ出る扉と窓。


【ホテルに滞在できる人々】
現代とは違って圧倒的な格差があった時代。
ホテルに長逗留できるような人種はそう多くはなかった。
この物語の登場人物はみな裕福、労働者はるい一人。


【男について】
■前身は火夫(かふ・船のボイラーマン)
―― 広野八郎日記より(昭和3年から四年間、火夫見習いとして秋田丸に乗船) ――
「船員たちの生活が如何に惨めで,放縦で捨て鉢なものかという事を痛感しないではおれない.
航海中汗にまみれ,真っ黒になって働いた其の報酬は,全部遊廓か船員相手の飲み屋,カフェーか
淫売屋,そうした享楽と本能欲のために,子供が花でもむしって散らかすように消費してしまうのだ.
そして貰った給料のみかナンバン(火夫長)から,驚くなかれ月1割5分というとても陸では想像も
つかない高利の金を借りて使うのである.
しかし,そうした気持ちになる彼等の心理がわかるようにも思う.日頃の満たされぬ惨めな生活を
癒してくれるのは,油と石炭の粉に汚れた身体を抱き,石のように固くなった手を握ってくれる女と,
苦しい労働も疲れた身体も海上の暴風雨も忘れさせ,麻痺させてしまう酒とよりほかに何があろう.」
火夫は最下層労働者。日当制。

■現在は税関吏(役人)に出世している
転勤がつきもの。現代でも函館・東京・横浜・名古屋・大阪・神戸・門司・長崎の8港に本部がある。
キャリア組は2,3年に一度の割合で財務省や全国の税関、海外勤務とさまざまな場所への異動がある。
女の台詞「あなたってどうしてそう方々をお歩きになったの?」はこの職業に対応。

■女はまだ男の生活のこまかいところを知らない。
夫婦?になって半年か、長くても1年ぐらいだろうというのが大方の受講生の意見。

■男はたぶん初婚。
この地位まで上り詰めるのに必死でやっと結婚する余裕ができた。
若い頃の三國連太郎や吉田鋼太郎のような肉体が説得力を持つ昭和の男のイメージ。


【女のキャラクターについて】
腹にあることをぜんぶ言う女。
それを無教養ゆえととるかお嬢さまととるか
(総理令嬢でも田中真紀子みたいな人もいるし)

‘素人風の商売女’とはどういう人物なのか?
男の台詞「おまえはまたどうしてそう何処も彼処も知らないんだ?」から、
女が狭い世界しか知らないことが解かる、これがポイント。

■男の家の女中だった
田舎から出てきて玉の輿に乗れて夫にふさわしくなろうと頑張っている。
化粧も頑張りすぎてケバくなり、それが商売女に見えるという説が出て座内爆笑。

■カフェの女給
もっともスンナリ入る解釈。
世間知には長けているはずだが稼ぐのに必死で旅行などもしたことがない。

※女中説も女給説も、やっとここまでになった男が選ぶ女なのか?
ということに疑問あり。

■上司、あるいは仕事関係の相手の娘
28,9は今でいうアラフォー。
(当時の精神年齢と人生のスピードは現代の10歳増しぐらい)
10年も行き遅れているということは、女は出戻りかも。
叩き上げの男ならもらってくれるということから世話された話なのでは?

※どの説も決定打としては弱含み。
逆に言えば、女は役者によっていかようにでも演じられる役だということ。
女の前身によって男の人間性が決まるため、配役のポイントが高い。

※女は登場人物中でもっとも健全に見える、一人だけ異質。


【京野精一について】
■療養という名目で逗留しているが、実際は病気ではなさそう
ex.煙草を吸う/酒を飲む

■子爵家の体面にかかわる何かをしでかして、家から遠ざけられているのでは?
ほとぼりが冷めるまでという感じで隔離されている?
「お邸のかたがしょっちゅうみえる」のはチェックに来ているのでは。
海浜のホテルということは街から離れた、人もめったに見かけないようなところ。

■本人の指向と家格にズレがあり、鬱屈を抱えている感じ
ex.「賑やかなことがお好きそうでいらっしゃる」/レコードをジャズに変えさせる
‘精一’という名は長男の証、昔は「一」の字は嫡男にしか付けなかった。
名家の御曹司としての苦しみがありそう。

■ひと回り以上年上の園子に接近するあたり、女慣れした放蕩息子っぽい

■美形であるのは間違いない
染谷将太、高良健吾などの名前があがりつつ、綾野剛で悲鳴が、、(笑)


【土屋園子について】
自分のことを語らない謎の多い人物。
夫は勤めていて息子もいるのに、ほとんど東京の家に帰っていないのはなぜか?

■園子が坊やと呼ぶ息子の年齢はいくつぐらいか?
「ああいうの(京野)のようにさえなってくれなければ」というつぶやきから、
15,6歳という説と、「坊や」の語感から5歳ぐらいという説に分かれる。
5歳児ならなおのこと、それを置いて旅暮らしをしている立場が理解できない。

■夫が妾宅に入り浸り?
でもそれではむしろ子供と結託して家にいそう。
■園子本人がおめかけさん? 子供だけ本宅に取られた?
が、妾なら旦那がいつ来てもいいように家から出られないはず。

■「ああいうのにさえなってくれなければ」
実はこれは息子ではなく、年の離れた弟のことなのでは?
この台詞は京野と実際に話す前に口にしている、
ということは園子は京野という人物を知っていたことになる。

京野の「小倉三郎君のお姉さんでは?」という発言のほうが真実なのでは?

■ひょっとして、園子の話すことはすべて作り話?
旅先でならいくらでも自分を偽れるし、プライバシーを明かすには抵抗もある。
子爵の御曹司という京野に対して、「と、称してるんじゃなくて?」と、
この切り替えしの速さが異質、それは自分もそうだからすぐこう反応したのでは?

■もしかすると園子も家から追われた身なのでは?
「人を気狂いにしてしまうっていうのは便利ですわね」という発言をしている。
歌を詠む芸術家肌な側面が理解されず、あるいは教養が勝りすぎていて、
婚家から疎まれて気狂いあつかいされ、経済的保障だけされて追い出された?


【あの夜の出来事について】
■男はこのホテルに来た初めから、るいがあの女だと気づいた
■男はこのホテルは二度目、るいのことを確かめにきたのでは?
そんな折に女房づれでくるだろうかという疑問も出る。

■男にとってもるいは初めての女だったのでは?
火夫をしながら船蔵で英語の勉強をしていた21歳が女遊びをしているとは思えず。
他の女性乗組員には興味がなかったのに、るいの名だけはずっと忘れなかった。

■この男はあのときの火夫とは別人なのでは?
とするなら「あの女は昔の俺に、火夫の俺に会いたかったと言うよ」とは?
この男には珍しい唯一の叙情的な台詞、岸田がこれを書いた意味はどうとる?

■最大の疑問は、るいが自分の年齢を把握していないこと
ト書きには明確に50歳とあるのに数行先で現在55歳ぐらいと自己紹介している。
ロマンスの昔がたりの中でもるいは年齢を4つぐらい上方修正している。

※二度も出てくるということはここには何か意味があるはず。

■るいのロマンスも作り話なのでは?
現実はもっと味気なくあっさりしたものだというアイロニーがテーマ?
るいは、では、本当におかしくなっているということなのだろうか?



---------

落としているところがたくさんありそうですが、ひとまずのまとめということで。
何か気づいたらコメントしてください。

謎解きの答えがさらなる謎を呼ぶ、刺激的な時間でした。
人が考えていることって面白いですよね〜、
みんな真剣にやってるんですけどしょっちゅう爆笑がおきる若々しい教室です。
(笑)

さてさて、今週はぐっと核心に迫っていくことになりますが、どうなりますか。
CDに焼きましたので、次回はタンゴの音色から始めましょう♪









posted by RYOKO at 23:00| Comment(4) | TrackBack(0) | 『顔』を読む! | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
おさらいになって、大変助かります!。

>やっとここまでになった男が選ぶ女なのか?

親戚の冠婚葬祭などで、ご高齢の方の話しを聞いた時
バイタリティのある、目端の利く男には、本妻の他に2号さん、
3号さんがいたりして、女性は頑張った分のご褒美感覚か?
と思ったことがあり、
この男には他に女がいてもおかしくないし
親密なつきあいをした女と現在進行中だったりもするんじゃ
ないかと思いました。
選んだ女というよりは、そろそろ身を固めるかと思ったときに
たまたま近くにいて、好ましく思った女…というイメージでした。

屋敷を与えられて、生活費も保証してもらっているけれど
家にひきこもりのお妾さんの老後を話しに聞いたりして
女に自己実現なんて、ありえない時代だったのだろうな…と
良かった!現代に生まれて…と思いました。
Posted by Mumble at 2015年09月24日 02:12
女性は頑張った分のご褒美、、
ああ、トロフィーワイフですね。
洋の東西を問わず、この感覚は昔から男性原理の基本にあるのかもしれませんね。

最近の女性たちはこれを逆手にとって、
なかなか会ってくれない彼氏にイライラするのではなく、
会えるように頑張ろうという気にさせる「ご褒美カノジョ」を目指さなくちゃ!
なんて、健気というか切実な反転現象も起こしているようですが。(^ ^;)

「そろそろ身を固めるかと思ったときにたまたま近くにいて、好ましく思った女」
という感覚は十分アリですね。

そういうおおらかな人物なのか、それともご褒美感覚から離れていない人なのか、
演出と演じ手が‘男’をどの方向性で見せたいかで選択できる2パターン目が、
出ましたネ。(^ ^)b
これ、忘れずに、第四回でまた男の解釈に戻ったときにぜひお話ししてください。

「親密なつきあいをした女と現在進行中だったりも」というのは、
この‘女’意外にも2号3号がいるかも、ということでしょうか。
なるほど〜、男の甲斐性ってやつですね。
って、あれ?
これもご褒美感覚、じゃね?(笑)

まあとどのつまりは、金と自由はイコールってことなんでしょうか。
それこそミもフタもない結論になりました。(^o^;)ゞ
Posted by RYOKO at 2015年09月24日 18:57
他にいるだろうなあ…と思ったのは
冒頭の男と女のやりとりで、男の頭の回転の早さが印象に残り
モテるだろうなあ…と思ったからなのであります。

あんまり、お金でどうのという感じではないんですけど
女がほっとかないだろうなあ…って。

「不器用ですから…」というタイプでないことは確か(笑)。
Posted by Mumble at 2015年09月24日 20:07
あ、なるほどね!
確かにあの冒頭の切り返しは非常にクレバー、かつ女ごころをよくご存知。
こりゃモテますな(笑)

ってことは、この‘女’は、かなり魅力があるのだな。
あたしの中では、やすらげる女、って感じなんですけどね。

意外に頭もよかったりして、わざと愚かを装えるみたいな。。
うーむ、これで通るかもういちど読んでみよう。(^ ^)v
Posted by RYOKO at 2015年09月24日 20:16
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