2016年01月29日

『ロミオとジュリエット』〜謎ときの旅のはじまり

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『ロミオとジュリエット』 の講座が始まっています。
こちらのクラスはまた、『芝浜』とは違う独特の快感があるんですよね〜。

文学的アプローチから未知を解き明かしていく集中には、
なにか心を浄化してくれる作用があると、いつも感じます。

楽しさもひたひたと忍び寄ってくる肌ざわりで、気づけば軽い興奮状態になっていて、
もっともっと知りたい!という思いが、新鮮なオレンジを噛むようにあふれだすのです。

体験受講でいらした方も継続になってくださいました。
昨日まで知らなかった人と一緒に新しい扉を開けていく…思えば極上の出来事ですよね。
この熱い歓びもまた、教室を開いてみて初めて知ったことのひとつです。

さて、『ロミオとジュリエット』 です。
訳者によっては文庫本で240ページに至る長尺、教室では一幕から順に追いかけます。

な、長すぎるので、しかも内容がまた濃すぎるので、最後まで行き着けなかったら、
まあ夏からの教室に持ち越しでもいいやと、腹を括ることにしました。(笑)
実際、大急ぎでやるにはもったいなさすぎる名作ですからね。


【プロローグを置いたワケ】

このホンには、プロローグがある。
芝居の始まりと共に、序詞役(じょしやく)というキャストが出てきて前口上を語るのだが、
この内容がビックリすぎる。

物語の始めに、結末をネタばらししてしまうのだ。

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普通、物語というものはラストシーンを隠すものだ、
そこにこそ、時間をかけてその世界とつきあった醍醐味があるのだから。
シェイクスピアは何故こんな構成にしたのだろう。

彼のほかの作品に、オープニングで結末まで開示しているものは無い。
まして上演時間にまで言及しているのはこの作品だけ。

もしもこのプロローグが無かったら、観客は若い男女の純粋な恋心に酔いしれたまま、
二人が自殺してしまうという悲嘆のどん底に突き落とされることになる。
ショックが物凄いだけに、ほかには何も思い至れなくなる。

シェイクスピアは、それを嫌った。
彼が観客に提示したかったものはもっと深い、運命への俯瞰といったものなのだ。

序詞役は 「二時間」 と言っているが、実際の上演時間は3時間以上になる。
「二時間」 は記号なのだ。
恋の始まりから悲劇的結末までほんのちょいの間で突っ走る、という誘導がなされている。

ロミオとジュリエットが出会うのは、芝居が始まってほぼ30分後。
二時間と聞いた観客は、
やっと出会った二人が、残りわずか1時間半で心中するのだと思うことになる。
観客の無意識には、この二人には時間がないという切迫が擦り込まれる。

その切迫感はそのまま、若い二人の恋情の激しさとリンクしていく。
それはまた、運命というものの厳しさを身に沁みさせる一因ともなる仕掛け。

つまりは、観客の興味は、何が起きてなぜ死ぬことになるのか、その一点に絞られる。

死ぬことが分かっているのだから、「なぜ」 ということが最重要になるのだ。
その 「なぜ」 こそが、シェイクスピアが見せたかったものということになる。

なぜそんなことになったのでしょう?

それはこれから、一人一人の解釈によって導き出される。
「あなたの答え」 を探していただくのが、このクラスを開いた意義なわけです。


【劇場構造がもたらす芝居運び】

上では一幕と書いたが、実はシェイクスピアの原本には 「幕場」 が書かれていない。
一幕一場のような区切りは後世になって便宜上加えられたもの。

これは、当時の劇場の構造によるところが大きい。

シェイクスピアが『ロミオとジュリエット』を初演した小屋(劇場)はグローブ座ではないが、
構造はだいたい似たような作りで、舞台センター奥にカーテンで仕切られた開口部、
左右に役者の出入り口 (この図では赤い柱の蔭になっている部分) というのが基本。

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たとえばジュリエットが仮死の薬を飲む場面などは、センター奥を自室としておこなわれ、
ジュリエットが倒れてカーテンが閉まるか閉まらないうちに、
上下(かみしも・舞台の左右)の出ハケ口から役者がセリフを撒きながら登場、
舞台は一転、大広間ということになり、即座に次のシーンが始まるという、
スピーディーな展開で芝居が進んでいた。

ちなみに、この二階部分を有名なバルコニーのシーンに利用した。
というかこの構造だったからあのシーンを作ったのかもしれない。
グローブ座の場合は、本来は観客用の桟敷席。

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この古い図はちょうど 『ロミオとジュリエット』 を上演しているところに見える。

劇場は半野外で舞台は張り出しているため、天井はあったとしても雨風はしのげない。
セットの無い、いわゆる素舞台(すぶたい)の状態で、
物語は役者のセリフや動きでのみ進行する。

照明が無いため芝居は日中おこなわれる。
暗転が出来ないのだから、小道具や置き道具の出しハケも芝居なかで行われる。
(ゆえに自分の行動や物の動きを指示する説明ゼリフが多い)

現在のようにセットチェンジで別のシーンを作ることはなく、
いわんや緞帳など存在しないのだから、「幕」 という概念自体がなかった。
というか舞台セットという概念さえなかったと思われる。

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Shakespeare's Globe --London

芝居は始まったら最後、切れ間なくノンストップでラストシーンまで行く。

舞台の周囲は立ち見席で、かなりの高舞台(たかぶたい・舞台部分が高いということ)のため、
最前列の客は舞台に腕を置いて見られるほど。
観客は自由に場所を移動できるので、私語も多い開放的な状況だったと思われる。

役者もだが観客も、悪天候の上演時は大変。

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シェイクスピアの芝居はなぜあんなに早口でまくし立てるのかと思っていたが、
セリフの分量の問題以上に、役者の演技力だけを見せる芝居だからかもしれない。

この、セットのない素舞台で役者たちが早い長ゼリでパワーを放出する芝居というと、
おのずと思い出すのはつかこうへいだ。

日本のアングラ演劇の概念を塗り替えたあの若さあふれる舞台と同じものを、
エリザベス朝の人々は、シェイクスピアの芝居に見ていたのではなかろうか。
ものすごい熱狂で迎えられた気がする。


【モンタギュー家とキャピュレット家の諍いの理由】

『ロミオとジュリエット』 の初演は、だいたい1595年頃というのが定説。
16世紀末に書かれたこの芝居の舞台は、14世紀のイタリアの古都ヴェローナ。

ヴェローナはイタリア北部、アルプス南麓に位置する古来よりの交通の要衝。
イタリアからオーストリアに抜ける南北路と、
ジェノバ―ヴェネツィア間を結ぶ東西路が交差する地。

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物語より百年ほど前、ヴェローナはこの地政学的影響と相まって、
神聖ローマ皇帝の後押しを受け、周辺諸国を征服し盟主となるが、
ローマ教皇が神聖ローマ皇帝を破門したため戦争になる。

以来この地の支配層は皇帝派と教皇派に二分され、熾烈な争いをするようになった。
物語のベースは、この歴史的事実を踏んでいると言われる。

ロミオのモンタギュー家は皇帝派、ジュリエットのキャピュレット家は教皇派。
皇帝派は封建貴族や地主層が多く、教皇派は新興の大商人層が多かったとされる。

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【名前にこめられた意味】

『ロミオとジュリエット』 の登場人物の名前には、それぞれ意味が隠されている。
英語圏の観客はスペルを見てそれぞれのキャラクターをイメージできる。

大公
エスカラス

ESCALUS

実在のヴェローナ大公スカリジェリ(デッラ・スカラ)家より。
スカラーは英語で天秤の意。天秤は裁判所のマーク。

モンタギュー

MONTAGUE

Mount を想起させる。そびえ立つ旧家のイメージ。

キャピュレット

CAPULET

Capital を想起させる。資本家のイメージ。

ロミオ

ROMEO

イタリア語でローマへの巡礼の意。
巡礼は恋人への呼びかけ語でもある。

ジュリエット

JULIET

イタリア語名では女性名詞につきジュリエッタになる。
若々しい意味のJulia+可愛らしいを意味する愛称 etta。
July (聡明・明朗の意味有)と同じ語源、7月生まれ。

マキューシオ

MERCUTIO

Mercurius(メルクリウス=マーキュリー)を想起。
メルクリウスは世界にゼウスの意思を伝えて回る韋駄天。
スピーディーで雄弁な神。

パリス

PARIS

スパルタ王妃を略奪しトロイア戦争を引き起こした王子の名。
権力よりも戦勝力よりも世界一の美女を選んだ美男の優男。
パリスの審判」 元来は軽薄な軟弱者をイメージする名。

ティボルト

TYBALT

イギリス諸島の古い民話 『猫の王』 のタイトルロールの名。
ネズミ捕りの意味。

ベンヴォーリオBENVOLIO「善意」 という意味。
   



…講座内容全部は、とてもじゃないけど書ききれませんね。

まだまだ、ロミジュリの背景調査は始まったばかり。
しかし解釈は、
こうして外堀を埋めていく中でいつのまにか「確信」に迫っているものなのです。

次回はさらにたくさんの質問が出る時間になればいいですね。
疑問は知性の鍵ですから。

さあ、小さかったり古かったり、透き通っていたり重かったり、
扉は居並んでいますヨ。
次はどこからあけていきましょうか。








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