2016年02月23日

『隣の花』第一回:春まだき 隣はなにを乞うひとぞ

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先週から、岸田國士の『隣の花』の読み解きが始まりました。

庭続きの住宅に住む夫婦二組の話なのですが、これがアブナイホンでしてね〜(笑)

よく、隣の芝生は青いと言いますが、うらやむ対象が芝生ならぬ花だった場合、
…花とはつまり、隣家の奥さまということですね
これはなかなかタイトなことになるだろうことは、容易に想像できようというもので。

しかもこれ、きれいにクロス × しているわけです。
目木(めぎ)家のご主人は久慈(くじ)家の奥さまに、
久慈家のご主人は目木家の奥さまに、岡惚れしちゃっているという。

ソコんとこハッキリしてるなら、もう相手を取っ替えちゃえば? という感じで、
まあ、たぶんソコに向かって進んでいくと思われるのですが(結末が書いてない)
ソコは大人のお話なので、ソコに至る経過が、激しく面白いホンなのです。

ってソコ尽くしな文章になっちゃいましたが(笑) つまりそんな、
こそばいいというか落ち着かない、もやもやとした熱が全編に絡みついているわけです。

あー不倫ってこうやって始まるのね、ということをつまびらかにしてみせたホン、
なのだけれど、
これが巧いんですよねえ。

人の心の機微を書かせたら右に出るものがいない岸田國士の、
真骨頂ともいうべき繊細で自然な描写がリアルすぎて、舌を巻きます。

女性陣の感想に、男性なのに岸田國士ってどうしてこんなに女ごころが分かるんでしょ、
というものがありましたが、わずか30分ほどの物語とは思えない完成度の作品です。


このホンの凄いところは、「始まり」から始めていないところなのです。

つまり、二人の男性の人物紹介が済んだら、
次では目木氏が久慈さんの奥さんに、女房と別れる気でいますとかグイグイ迫ってる。
もうなんだか毎日そんな感じなのねという、途中から見せられるわけです。

それは久慈氏も同じで、男性がすでに迷っていないので、不思議なドライ感が漂っていて、
テーマがテーマの割りにジメジメしたトーンにならないのです。

この感じが独特の都会感をかもしだして、不倫の道に転がりだす男女の話というよりは、
人間って馬鹿だねぇ〜みたいな、戯画的な趣の方が立ち上がってくるんですね。

ご主人同士、奥さま同士の性格も真逆に設定されているので、
生身の人間臭さいっぱいでありながら、彼らはまた「記号」でしかないということも、
だんだん見えてくる。。深いホンです、さすがに。

なのでこのお話は、不倫な気分というものと真っ向から向き合わないとダメなのです。

ホンがドライなので、
演出もドロドロ感を避けようとすると、何が書いてあるのかまるで伝わらなくなるんですね。

ただの色恋沙汰の話だと思って勢いで見せようとすると、痛い目に遭う(笑)
案外骨太な、ひとすじ縄ではいかない仕掛けが施されているのです。

丁寧に、しっかり、隣の花を盗みにいく男心を演じる、
当の花ふたつは、摘まれたがっているのかいないのか、真逆の魔性っぷりを演じる。
そうして初めて、このホンの面白みが立ち上がってくるのですね。


この作品が書かれたのは昭和三年。
『顔』の解釈の際にも話題になったことですが、昔の日本人は大人でしたね。

現代人の私たちは、見た目も5歳から10歳ぐらい若くなってますけど、
精神性もそれに準じて、というのは、果たしていいのか悪いのか、
岸田作品に触れるたびにそのことを考えてしまいます。

戦前の日本は、文化的にはヨーロッパの影響を強く受けていました。
心情的にはフランス人に親近感を持っていたように思います。
そういえば、岸田國士もパリ留学した人でした。

それで思い出した、20代の頃にロードショーで、
フランソワ・トリュフォー監督の『隣の女』という映画を観ました。

こちらは、隣に越してきた一家の奥さんが、昔、激しく愛し合った相手で、
逡巡しながら愛が再燃し、破滅のラストシーンを迎えるという筋書きでした。

「愛し合うには辛すぎて、別れてしまうには愛おしすぎる」というセリフが鮮烈な、
大人の愛の物語でしたが、同じシチュエーションを取りながら、
岸田作品のほうにより成熟を感じてしまうのが、ちょっと驚きです。

破滅まっしぐらとは、いかないと思うんだよな、岸田の『隣の花』のほうの男女は。
愛で哲学してないというか、もっと野放図というか。

この物語にある俯瞰性が、そう思わせるのかもしれません。

それはまた、長く世界一の大都市であった江戸から地続きで育まれてきた、
東京という都市の持つ、あっさりと受け入れていくという精神文化の成せるワザ、
と言えそうな気もします。

反面、恋に関しては、フランス人の集中力にはかなわないけど、
どっこい日本人はなかなか陽気に図太いんだぜ、的なしたたかさも感じたり。

フランス風な色恋の展開に東京人の達観が加わるとこうなる、といった成熟度が、
この『隣の花』にはよく描かれています。


本読み教室でこのどこまでに肉薄できるか、
こんなテーマのホンもそうは無いのでね〜、かなりスリリングな期待、大です。

しかし、戯曲の読解というオフィシャルな場でまじめに不倫を追求するなんて、
なんたる健全。(笑)
ええ、もう安心して文字のアバンチュールを楽しめるってものです。

だってここは、チョットないオトナの教室ですから。
今週も、人生の愉しさ、豊かさを、みっちり読み解いていきましョ!








posted by RYOKO at 00:00| Comment(2) | TrackBack(0) | 『隣の花』 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
隣の花、想像とは違うお話でしたが、大人な内容で脳が沸騰してしまうんじゃないかというくらい興奮しました!
読んでいて、どんな気持ちか分からない所だらけでしたが、危なくセクシーな雰囲気にのみこまれました笑
解釈の時の諒子さんの言葉がまたセクシーでそれにもドキドキしてしまいます笑
これからがとっても楽しみです!
また金曜日よろしくお願いします!
Posted by あやか at 2016年02月23日 23:33
あやかさん、コメントありがとうございます。

「隣の花」と聞いて、どんな物語を想像したかしら?

あたしも最初、『賢者の贈り物』みたいな都会のメルヘンをイメージしたので、
ぅええっどぇどぇどぇ!とビックリの雪崩に。。
お堅いと思っていた岸田國士がこういうホンを書いていたとは!
そこからこの方への興味が始まったのでした。

金曜の男性陣が本気だしてくれたら、これはかなりまた意外なところに行けると思ってます。
たぶん単なるセクシュアルな話に留まらなくなるはずなんだけどなー。

男性にはかなりハードルの高いホンかもね。
いったい何が書かれているのか、どんなヒミツがあるのか、
謎解きの解は、みんなのアイドル TORAO さんとプリンスエガコの腕にかかってるのだ(笑)

今週から濃いとこ行きますヨ!っほっほ〜。
Posted by RYOKO at 2016年02月24日 01:40
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