2016年08月03日

美しきひとの名は…

komachi01.jpg

夏クラス、始まりました。
ずいぶんたくさんの方が体験にいらしてくださり、なんと嬉しいことに全員が継続に。

フレッシュで華やかな幕開けの中、本読み教室はまた新しい一歩を踏み出しました。


□□□□□□□□

今季のテキストは、一筋縄ではいかない作品。
構造が複雑なため、1ページ目から順を追っての解釈というのができない。

感想を聞くと受講生の興味は、やはり後半のクライマックス部に集中。
そこで出た解釈を基点に、前半部分へと還していく形になった。


 komachicap01.jpg

この台詞に対して印象に残った解釈をランダムに。

キレイと言われる嬉しさは女の本能、言わせることで満足する。
 ゆえに美しいと言わせた後はカマキリのように豹変、相手が死んでも平気。
 この変わり身の速さは女ならでは。

憧れの相手にキレイと言われたら失望する。
 相手にはもっと高いところにいて欲しかったから。
 自分より強い男を求めているのに、降りてこられると恋は死ぬ。
 この男も只の人だったという感覚、男の死はイコール恋の死。

美しいと言われた時から女は歳をとっていってしまう。
 だから言われたくない。
 それでも言われたら、恋の絶頂はその時からもう死んでしまう。

この男と女の会話は精神的セックス。
 美しいと言われることは絶頂、いつまでも浸っていたいから寸止めがいい。
 言われたら後は醒めるしかなくなる。
 それなのに男は欲望に駆られてすぐに言いたがる、絶頂のみを欲しがる。

キレイに見えるが女って汚いよねという作家の目を感じる。
 男の理想が描かれている。
 男の作家が書いたものだなーと思う。

老いさらばえた姿を世界で一番美しいとまで言う男の目線の変わり方が滑稽。
 この老婆は人間の愚かしさ、儚さを引っ張り出す幽霊・妖怪なのでは?
 手管を使って褒め言葉を言わせ取り殺す。
 美しいと言われることがこの妖怪のごはん。

作家は「美」をフリーズさせている。
 戦前の日本が持っていて失くしたものへの恐れ、悔恨を描いている。
 全般的に生と死が意識されている。

一度欲望を抱いたら男は止められない。
 美しいと言いたい絶頂へ一直線に向かうしかない。



□□ READ by Yamagishi □□

この物語には「俗悪」という言葉が9回も出てくる。
作家は「俗悪」ということに何か大きな意味を持たせている、それは何なのか?
舞台設定は「極めて俗悪」=第一行目のト書きからすでに隠しテーマが忍ばされている。

物語の書かれた年は1951年(昭和26年)、クライマックスシーンの舞台は鹿鳴館。
鹿鳴館は明治19年開館。19年前は幕末。黒船来航が明治維新という革命を引き起こした。
然るに昭和26年、こちらもわずか6年前に敗戦から民主主義への大転換が起きている。

この物語には二つの断層が描かれている。
この国が培ってきた文化、歴史、思想は米国によって二度、バッサリと断ち切られた。

小野小町は昭和26年時点でも1100年以上前の時代に生きた、わが国一の美しき人。
千年続いた古(いにしえ)からの美が、アメリカナイズされた近代では老婆と蔑まれている。
作家はこれを隠しテーマにしているのだと感じる。
舞台が鹿鳴館である意味はそこにある。

 komachicap03.jpg

敗戦からたった6年で、あまりにも変わってしまった日本。
命を懸けて守ろうとした国は、かつて愛した美しさを刻々と失くしていく…
26歳の天才作家の心に刻まれた思いは、現代の我々には想像も及ばない。

  花の色はうつりにけりな いたづらに わが身世にふる ながめせしまに

―小野小町       

この物語は米国の占領時代に書かれている。
日本が独立を果たしたのはその半年後だった。
ただ、戯曲の読解と作家の思想への共鳴は別物、ここに巻かれてはならない。


謡曲の『通小町』では、愛の妄念となった深草少将の霊が小町に取り憑き、
旅の僧の導きによって百夜通いを再現することで二人は成仏できる。

この物語の老婆にはそれがない。
99歳の老婆はさらにもう100年生き永らえねばならず、宿命のループから抜け出せない。
なぜなのだろう。
この老婆は何かを待っている。
いったい何を? なぜ? 待っているのだろう。

戯曲の読み解きをするとハマる罠は、「物語」を逃しがちになることだ。
まして演じ手なら、イメージの力は常に湧き起こしていなければならない。
この作家が描いたのは、絢爛豪華にしてせつないロマンティックな二人なのだから。

私が想う小町と深草少将の在りようは、この美しい曲がイメージさせてくれる。

  

ここまで甘美な世界に仕立てても、まったく陳腐に落ちない物語。
私はそう読んでいる。

そうむしろ、この物語の甘美に浸った方が数々の謎はきれいに通る。
ひとつずつ解釈を深めるごとに、豪奢でさびしいこのロマンスに戻ってみればいい。



komachicap04.jpg



komachicap05.jpg



komachicap06.jpg



komachicap07.jpg



komachicap08.jpg



komachicap09.jpg



komachicap10.jpg





今週も、前へ、進んでまいりましょう。(笑)





posted by RYOKO at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 小町という女 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

この記事へのトラックバックURL
http://blog.seesaa.jp/tb/440637289
※言及リンクのないトラックバックは受信されません。

この記事へのトラックバック