2016年08月18日

お踊りあそばせ…

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軍服での舞踏シーンのイメージを探していてふと気づいた。
少将は軍人、つまり死ぬことが仕事の人間なのだ。

恋のために死ぬ。
確かにそれは軍人としては文弱の徒に成り果てた姿であろうし、
その組織の人々から見れば、少将の選択はそれこそ噴飯ものの“俗悪”の極みだろう。

エリート集団である参謀本部の少将が一人の女のためだけに命を捧げた。
これは想像以上のかなりな異変なのだった。

先週は表現テクニックについての具体的な講座だったため、内容はここには書けず。


□□ READ by Yamagishi □□

今夜、今すぐ死んでもいいという少将を、小町は必死で引き止める。

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生きるということを、「充実」という言葉に置き換えてみると。

小町が言っていることは「死のために人生を充実させるわけではない」。
これは、馬は人参がなくても駆けるものという台詞とイコール。
生き続けることに意義を見いだし、まるで「命」自体として発言しているよう。

一方で少将は、「死を選べば充実して生き切ったことになるのかもしれない」と言う。
至高の絶頂に到達できる瞬間を得るためなら死ねる、という思い。
命をどう使うかは自分が決めることと、あくまで個の中で生きている。

小町は線を生き、少将は点に生きようとしている。
これはそのまま男女の性の特徴にも通じつつ、小町はどんどん焦燥していく。

百夜という長い時間を経て身も心も預けようと決めた、その男が、
いつのまにか自分を乗り越えて遠くへ行こうとしているから。
勝手に置いていかないでという悲鳴。

だから男がもっとも嫌う“俗悪”という言葉で断定し、
絶頂体験という死の誘惑から引き戻そうとする。

このあたりは、ただの女と哲学を持った神に近いような老婆とが渾然一体となっている。
それは、女の子に相手にされず大恋愛に憧れてきた弱虫の詩人が、
万民のための命として生の瀬戸際を見続けてきた男の中の男である少将と同化していく、
それと同じ現象。


小町はやはり「女」でなければならない。
動画サイトで、徹頭徹尾ドライにブレない老婆が演じられている映像を見たが、
それはやはり違うと思ったのだった。

小町の台詞はすべて言い切りなのだが、気持ちもこのままブレずにやると、
詩人が阿呆に見えるのだ。
説教したのに言うことを聞かず、勝手に滅びていった愚かな男。

これでは小町が何のためにあんなに必死に引き止めたのかがまるで分からない。
詩人=少将に納得の魅力があればこそ、老婆も小町も言葉を尽くせるのだ、
あんなに取り乱してまで。

この話は小町が女としてブンブンに乱されなければ作家の本当の意図が伝わらない。

脆弱なかぼそい詩人に身を預けようというまでの夢を、小町も見るのだから、
老婆が絶世の美女になったように詩人が水も滴る「男」に変わる、
そうなって初めて男女の性差、人間の生き様の違いが浮き彫りになる。
それがこの作家の仕掛けなのだ。

彼女は『マクベス』の魔女ではない。
預言者然とした客観芝居は物語の悲劇性を損なう。
俳優は台詞の裏をどう掻くか、どんなリアルを立ち上げられるか、
そこから離れてはならない。


鹿鳴館シーンで踊る曲として個人的に浮かぶのは、
ショスタコービッチの“セカンドワルツ”

この動画は、ワルツというもののめくるめく感じがよく編集されている。



こうしてみると、ワルツとはなかなか激しいものだ。
これだけクルクルしていたら、相手だけを見ていないと転んでしまう。

相手の身体のリズムに集中していくうちに、「気」も合ってくるわけで、
クルクルクルクル…酔ったようになって、
いやがおうにも二人だけの世界に埋没していくことになる。

もっとゆっくりとした優雅なものだと思っていたが、これはほとんど魔術な踊り。
詩人が少将に変わってゆく仕掛けとしてはパーフェクト、そのうえに、
フォーマルの極みであるこのダンスには、整え抑制しようと堪えるセクシーさがある。

それは百夜通の忍耐を思い起こさせるものだ。
剥き出しの情熱をぶつけあうタンゴではダメなのだ。
作家はこのへんの感覚もよくご存知だったわけだ。



さて、そんな、この作品最大の見せ場を体感してみようという、
無謀にもほどがある講座が(笑)明日からはじまります。

台詞の間があくことなんて気にしなくていいから、相手を感じることを一番大事に、
こんなシーンをさくさく喋ったらむしろワタシ怒ります。

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(笑)。






posted by RYOKO at 23:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 小町という女 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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